フルーツ好きな私だが、とりわけ桃には目がない。あの甘い香りと、ジューシーな果肉に味と全てが完璧だと思う。
昨年、大菩薩嶺という百名山の近くに絞りたての桃ジュースを売っているお店があると聞いた。ジュースというより桃そのもので、とてつもなく美味しいらしい。昼過ぎには売り切れることもある人気店とのことだ。
そんな話を聞いたら行かないわけにはいかない。早速、山行計画をした。
ところが当日は雨予報で泣く泣く諦めた。熱意あふれる我々はリスケ日を設定したが、その日も、かの有名なウイルスによっていけなかった。それでも諦めきれない我々は、再度日程を調整した。ところがその日も雨模様で涙を飲んだ。
結局、行けずじまいで2022年の桃シーズンは終わってしまった。
そして1年越しに桃シーズンがやってきた。今年は1年分の想いが詰まっている。昨年よりも気合が入っていることは言うまでもない。
チャンスはあればあるほどいい。4月に桃ジュースを飲んでいる投稿を山アプリから見つけたので、早速、6月の初旬にスケジュールを設定した。
ただ昨年までの私とは訳が違う。雨が降ることも見越して、6月の末に別のメンバーとも約束をした。どちらかは行けるかもしれないし、運が良ければ2回行ける算段だ。念には念を、入れれば入れるほどいい(はずだ)。
2023年、桃ジュースへの挑戦が始まった。
1回目は、悪天候のため中止。残念だが、ここまで振られ続けている私は動じなかった。念の2回目はこのために用意されているのだし。
2回目、はやる気持ちを抑えられず、5日前から天気予報をチェックしていた。コロコロと変わる天気予報に、私の心もコロコロと落ち着きがなかった。
そして、思いは通じた。ついに好天で大菩薩嶺(桃)を迎え入れる準備ができた。
前日から私の心は桃でいっぱいだった。
楽しみすぎて眠れなかった私は、嬉々として「桃ソングプレイリスト」を作成した。大塚愛「PEACH」、松浦亜弥「♡桃色片想い♡」の定番ソングから、山口百恵「プレイバックpart2」の意表をつかせるための桃ソングまでを取り揃えた※山口もも恵。
早速、行きの車内で桃プレイリストを披露した。シャッフル再生をしたら、まさかの「プレイバックpart2」が最初に流れた。定番ソングで流れを作ってからの山口もも恵だったのに、とSpotifyの空気の読めなさに落胆したが、初っ端に持ってくるなんて、むしろセンスが高いのではないか。Spotifyよ、今後ともよろしく、と心の中で呟いた。
そして我々は、桃ジュース屋さんに1番近い駐車場に車を停めて、開店から1時間後のお店を目指した。「まさかこの時間で売り切れていることはないよね。」と互いに励まし合いながら、今日のピーク(桃)を目指した。
お店が見え、胸が高鳴った。ついにこの日を迎えられるとは…自然と足も速くなる。
ところが、小走りで齧り付いた看板には、「SOLD OUT」という衝撃の札が貼られていた。この時間で?!とまだ事態が飲み込ず、オーナーに尋ねた。
すると、まだ桃が収穫できていないからジュースもできないとの回答だった。キズがついているものなど、売り物にできない桃をジュースとして販売しているから、入荷状況によるのだそうだ。桃真っ盛りになる7月中旬頃にはあるだろうということで、桃シーズンにはまだ早かったのだ。
そんなショッキングな知らせを受けて泣きそうになる我々を不憫に思ったのか、優しいオーナーは、売る予定はなかったというプラムを、我々のために売ってくれた。切なさにその優しさが染み込んだ。
戦利品ならぬお情け品を手に、ピーク(桃)を踏み終わった我々は、重い足取りで大菩薩嶺の登山口を目指した。
その道中、私の頭の中には「♡桃色片想い♡切なVer.」が流れていた。
この片思いが実る日はくるのだろうか。きっとその恋の味は甘いんだろうな、と思いながら、今日も幻の桃ジュースへの思いを募らせている。