ディズニー映画の中でも「モアナと伝説の海」は、何度も見るほどお気に入りの作品だ。“海に選ばれた“モアナが、村を救うために初めて沖に出て冒険をする物語だ。ストーリーや劇中の音楽が楽しくて素晴らしい。そして何より、海の描写がものすごく美しい。植物の合間から海が覗く景色とか、水面のキラキラした感じとかに心が踊る。
そんな美しい海に選ばれたモアナは、海に憧れる私にとって、もちろん憧れの存在だ。
高知県の仁淀川に訪れた際、SUP体験をした。我々の他に2人参加していたが、みんな初めてということだった。SUPのパドルがモアナを彷彿とさせ、川であるという大前提は一旦横に置いて、自分はモアナだと言い放った。
いろんな種類のボードがあって、それぞれが好きなものを選ぶことから始まった。私は勇んで最もモアナらしいカラーリングのものをチョイスして隣に立った。数分後、別のグループの指導員の方がするっと私の選んだボードを持って行ってしまった。我々のグループを指導するお兄さんが苦笑いでこちらを見ながら、「これを使いましょうか。」と最後の1つを指差した。「はい。」とこちらも苦笑いをするしかなかった。
奇跡の清流とされる仁淀川の澄んだ緑がかった青は、通称「仁淀ブルー」と呼ばれる。その日は幸運にも晴天で、まさにその仁淀ブルーが惜しみなく広がっていた。青空の青と木々の緑が美しく混ざり合った、これまで見たことのないブルー。この澄んだ奇跡を目の当たりにできていることを幸せに思った。
自分がモアナと言い切った以上、ボードから落ちるわけにはいかなかった。泳げないという元々持ち合わせていた弱点と、チキンハートという元々備わっている性格から、細心の注意を払ってバランスを取った。他の人はバンバン落ちていてキャッキャとはしゃいで楽しそうだった。お兄さんも「落ちた方が楽しめますよ。」と煽ってきて心が揺らいだが、モアナのテーマソングが頭の中に流れてきて平静を保った。
ついに最後まで私は一度も落ちることなく、SUPを終えた。みんなにも「すごいですね!」と言われ調子に乗った私は、これで堂々とモアナだと言い張ろうと決意した。
それから3ヶ月が経ち、海水浴に行った。モアナの大本命、海だ。
その日は遠くにいる台風の影響か、波が高かった。驚いている瞬間に波が私に覆い被さった。顔に潮がかかり、目も鼻も痛い。言い忘れていたが、泳げない私は顔に水がつくことも怖くて苦手だ。つまり、この状況は結構恐怖だった。
その後も大きい波がくると、子供達が楽しそうにはしゃいでいる横で、私は浮き輪にしっかりとしがみつきながら「危ない!」と叫んでびびっていた。
海に選ばれていないことが証明された。あの時仁淀川で出会った人々と、決して海で出会いたくないと心底思うばかりだ。