前回こちらの日記で書いた若者に会うため、まさかの赤岳に登ることになった。
登山スキルの無い私には無理だと宣言していたのだが、あの時のシルクの話などを会話に持ち出しすぎて、これは会いに行くしかないと唆された。
ただし、簡単には行ける山ではない。自分の体力も心配だ。8月末の本番に向けて、友人とトレーニング登山を決行することにした。
神奈川県の塔ノ岳は、標高差や歩行時間がトレーニングにはちょうどいいということで、この日記以来の塔ノ岳を目指した。
前日、ルートを確認した。今回は1年前とは異なり、バカ尾根のピストンでまさにトレーニングだ。標準コースタイムは登り4時間の下山3時間で7時間、我々は朝7時には登り始める計画だったので、遅くとも14時-15時には下山できるだろう、と踏んでいた。
当日は30度近くになる暑い日で、バカ尾根と別名がつくくらいに長い長い尾根道をひたすら歩くのはしんどかった。日差し、汗でびしょびしょのシャツ、目の前をくるくると飛ぶ虫、メンタルをえぐる事象が重なる。
疲労が最高潮に達する頃、終わりの見えない長い階段にでくわした。途中に休憩スポットもなく、心が折れそうになりながらもなんとか足を前に運ぶ。
そんな頃、階段の終わりに「氷」の看板が風に揺らめく様子が見えた。それは希望そのものだった。その希望の光を一心に見つめて、階段を登り続けた。
かき氷を売る山小屋に無事辿り着いた我々は、迷わずかき氷を食した。あんなに美味しいかき氷は、後にも先にもないだろう。
そんなこんなで希望に助けられた私たちは、山頂に着いた。そこでこれまでのタイムを確認して目玉が飛び出た。まさかの3時間で登りきっていたのだ。標準タイムから1時間も巻いている。
疲れなど吹っ飛んで、自分たちで力量を褒め称えた。褒め称えすぎて、山頂の景色を見るのを忘れるほどだった。
そこまでハイになっていた我々の横を、年長さんくらいの男の子とお母さんが「ここまで3時間くらいだったねー。」と爽やかな顔で通り過ぎた。天狗になっていた鼻を、びっくりするくらい早々にへし折られた。
下山もなかなか順調だった。成長ハイになっていた私たちは、信じがたいほどスピードが出ていた。いや、出していたという方が正しい。いつもだったら転ぶのが怖くてゆっくり下りるのに、今回ばかりは小走りだ。休憩だって今の私たちには必要ない、欲しいのは記録だ。下山も巻きたい、そんな静かな野望が芽生えていた。
そのまま転ぶこともなく下り続け、最後はダッシュしてゴールテープ(もちろん実際にはないが)を突き抜けた。記録を確認する。すると、下山は2時間半と標準タイムから30分短縮できていた。
さらに昨年の記録を確認すると、合計7時間40分だったことがわかった。なんと今年は2時間も早くなっていて、自分たちが1番驚いた。
大記録を成し遂げた我々の成長ハイは加速し、調子に乗って赤岳も問題ないとまで口にし、褒めて欲しい一心で各所に報告した。
成長ハイとふざけたネーミングをつけたが、この感覚は大人になって成長を感じる機会が少なくなって忘れていたものだった。できることがちょっとずつ増えるのを肌身で感じていたあの頃、努力する原動力はこれだったのではないか。
そして、この歳になって感じたからこそ、もっともっと嬉しくて貴重で代え難い。ひとつのことを続けていたからこそ味わえた感覚で、登山という趣味がより大切になったこの山行は、深く私の心に刻まれた。
🐣さて、赤岳本番はどうだったのか!次回「赤岳に登った話。」でお会いしましょう🤝