自然豊かな山の中では、湧水を飲むことができるスポットがある。そのまま飲めるほど澄んだ川の清流を汲んで、料理に使ったりお茶を淹れたりできるという、なんとも乙なことができるのだ。
私はコーヒーを淹れるのを一応趣味としている。湧水でコーヒーを淹れられたら素敵すぎると思っていた。
そんな頃、ちょうど栃木の尚仁沢という所で湧水を嗜む山行企画が上がった。該当の日はノンアクティブな友人と約束があったが、私の尊敬する師匠による企画だったし、内容的にべストフィットで行かないわけにはいかず、恐れ多くも友人にリスケを申し入れた。
その友人は、私の山と師匠への熱意に理解のある子だったので、快く受け入れてくれた。陳謝して、その山行に参加することとした。
湧水を使うにあたって、情報収集してみた。すると、川の水には野生動物の何ちゃらによるほにゃらら菌であたることもある…といった記事がたくさん出てきた。
今まであたったことはないのに、あたるのが怖くて牡蠣を食べられないほどのチキンハートの私は、結構怯えてきた。川の水でお腹が弱い人は下すことがあるのは知っていたが、自分は元来そういう面ではお腹が強い方なので大丈夫だろうと思っていたのに、〇〇菌であたる系の話は想定外だった。市街ではお腹が弱くないだけで、もしかしたらこのお腹はシティガールかもしれない。
詳細を調べていくと、自然の水を飲む際に使う携帯式の“ろ過装置ボトル“があることもわかった。価格はピンキリで、高価になればなるほど例の〇〇菌まで綺麗にできるようだった。チキンハート的には、最高レベルでろ過できるもの一択だった。ただそうすると、値段が高すぎる。今回限りかもしれないのに買うのは勿体無いという結論に至った。
当日、念のため、我が家のクリンスイ(浄水ポット)で浄水した水道水を持参した。
湧水が飲めるスポットまでは、平らな自然道を歩くハイキングで癒された。夏真っ盛りの暑い日だったのに、川の近くは涼しい風が吹いていて、とても心地よかった。その川べりで、湧水を堪能することになった。最高すぎるロケーションだ。
各々、湧き水をとりあえずそのまま飲んだり、調理用に汲み始めた。その様子を遠目に見て羨ましく思ったが、私の脳裏には例の〇〇菌の話が浮かんでいた。
手が止まる私を不思議に思い、周りのみんなは聞いてきたので説明をした。すぐ下山できるし大丈夫だよ、と笑われコップを差し出された。確かに、せっかくきたのに飲まないのも癪だ。一口だけ飲ませてもらった。小さな声で「美味しい」と漏らした。
これで湧水を飲んだので今日の企画は体現したといえるだろう。ここからは勇んで、あくまでも念のため持参した、浄水した水道水でコーヒーを淹れた。
みんなは、湧水パスタや湧水炊き込みご飯など、各々調理していて素晴らしい光景だった。見ていて飽きない。こちらも言わなければわからない。うん、湧水コーヒーだ。大変癒されて満足な1日だった。
ただふと振り返った今、リスケまでして湧水コーヒーを目指したのに、結局いつもと変わらない地上の水でコーヒーを淹れるとは、我ながらトホホな気持ちがあることは否めない。