山で食べるために作られた食品はすごい。持ち運びに便利なものがバリエーション豊かに取り揃えられているのに加え、技術の進歩がしっかりと生かされている。
登山道具屋さんの食品コーナーで目移りするほど美味しそうな商品が並ぶ中、アルファ米シリーズが幅を利かせていて、特に気になった。食品メーカーからスポーツ用品メーカーまで、各社がいろいろな味のご飯を出していた。炊き込みご飯からリゾット、ガパオライスまで世界中のご飯が揃っていた。自他共に認めるグルメな私は、味もこだわっていそうな食品メーカー製の「ナシゴレン」を選んだ。
早速このご飯を食べるために、山行を計画した。初心者でも行きやすく絶景が見えるということで、山族ガールからお勧めされていた塔ノ岳に行くことにした。
登りは、ヤビツ峠からのルートになった。一ノ塔から三ノ塔までを通って、山頂を目指す。登り始め30分が辛いんだと文句を言いながらも、一ノ塔に着いた。開けた眺望で富士山が見え、めちゃめちゃ綺麗だった。その景色に、我々ははしゃぎまくった。めちゃめちゃ綺麗だったのに、他の登山客は我らとは正反対に特に感想も述べず、ひたすら歩を進めていて謎に思った。
標高を上げていくにつれ、他の登山客がはしゃいでいない理由がわかってきた。一の塔より二ノ塔、二ノ塔より三ノ塔の方が眺望はすごかった。冷静に考えれば当たり前で、他の登山客の反応が正しかったことがわかり、我々はちょっと恥ずかしくなった。まさにおのぼりさんだった。(と、上手いんだかそうでないんだかわからないセリフで心を落ち着かせた)
山頂に進むにつれて、登山道が険しくなった。ハシゴがあったり、ちょっとした鎖場があったり、神経も体力も使った。心が折れそうになる瞬間もあったが、歩いている時に見える絶景と、ナシゴレンを食べる楽しみで乗り切った。
山頂に着いたら、これまで以上の絶景が広がっていた。一ノ塔ではしゃいだ私の姿を見かけた人々の記憶を、消し去りたくなった。
山頂には、山小屋があったのでそこでコーヒーをいただきながら、お昼を取ることにした。私は例のナシゴレンを取り出して、このアルファ米はお湯でも水でも調理できるのだと、2人に自慢しながら意気揚々と水を注いだ。
注いでいる途中で、何分くらいでできるの?と聞かれたので、調理時間の記載をみた。その途端、小さな山小屋の中で思わず叫んでいた。水の場合は1時間と書かれていたのだ…!この空腹を前にして、1時間後にしか食べられないという信じ難い事実がそこにはあった。それでも注いだ水は元には戻らない。前に進むしかなかったので、最後まで注ぎ切った。
その後、水を入れるだけでいいの?と聞かれ、裏の記載を見た。どうやら、今水を注いだ袋の中にスプーンが入っていて、それを使って混ぜる必要があったらしい。ここまできたら、もう落ち着いていた。どうにでもなれ、だ。スプーンも取り出さず、下山中の行動食にすることにした。
空腹にやさぐれながら、ふと隣のテーブルを見たら登山用品メーカーのモンベル製のアルファ米を美味しそうに頬張っている人がいた。目を凝らすと、「お湯で3分」と前面に大きく書かれていて湯気が立っていた。私の買った食品メーカーのアルファ米には、裏面に小さくお湯で10分・水で1時間と書かれていた。
おのぼりさんwith水とスプーンに浸かったナシゴレンでは完敗である。